一通の手紙を添えて最後の献本をした後に、私の元に届いたメッセージ【神野藍】
神野藍 新連載「揺蕩と偏愛」#12
◾️私の中に巣喰う怪物
目の前に、朝のような人間が現れた。
本人は夜型だと笑って間に受けなかったけれど、私からしてみれば「私の中に生まれた感情」を無に返してくれるような温かさと力を兼ね備えていた。眩しいなと素直に思っていた。歩いてきた道も、それこそ獲得してきた言語も違う感覚があって、何時間も話し続けた夜が不思議でたまらなかった。暫く執筆も順調だった。更新される度に送られてくる感想を読むのが毎週の楽しみになり、少しずつ紡ぎ出される言葉も、私自身も変化が起きているのを感じていた。ただその反面で、私の中に巣喰う怪物はじりじりと灼かれていっていた。眩しい。羨ましい。でも、そんな人を私と同じところまで引きずり落としたい。私の中で何かが分裂していく。分裂していくほどに、現実の時間に黒い影を落としていた。そして、それを直視して何か手を施すほどの勇気があの頃の私にはなかった。
どれだけ神野藍としてどんなに前に進んでも、私としては深い巣穴に置いて行かれたままで、何かに触れている感覚がなかった。最後は私が相手の身体の中心まで引き裂いて、柔らかいものを抉り出してしまった。
子供だったな、と思う。それだけでは済まされないのは分かりながら、そう表現するのが最も適切であった。そして時間が経つごとに、相手を許せない感情よりも私が私を許せない感情が上書きされていった。
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「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛!衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに